新卒入社から約3年でCTOに就任。Mirrativの成長を支えたエンジニアが大切にしてきたこと

Mirrativ

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Interviewee

夏 澄彦

東京大学大学院情報理工学研究科修了。Wantedlyにて最初期のエンジニアとして開発を経験。2015年、株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社し、Mirrativの初期メンバーとしてサーバ・iOS・Android・Webなどの開発全般に従事。同年度の新卒MVP(1名)を受賞。2017年よりリードエンジニア。 2018年、株式会社ミラティブをCEO赤川、CCO小川とともに創業し、CTOに就任。

「友達の家でゲームをやっている感じ」をキーコンセプトにした、スマホ専用の生放送やゲーム実況ができるコミュニケーションアプリ「Mirrativ(ミラティブ)」。このサービスを技術面において支えてきたのが、CTOの夏 澄彦氏だ。 夏氏のキャリアは異例である。2015年に株式会社ディー・エヌ・エー(※)に新卒入社した後、「Mirrativ」のサーバーサイド開発に従事。2017年春からはチームのテックリードを務め、株式会社ミラティブとして分社化した2018年2月からはCTOに就任。わずか数年の間に、キャリアの階段を駆け上った。 成長の裏側には、サービスへ向ける真摯な思いがあった。夏氏の歩んできた道のりを、ここでは紐解いていきたい。

※…株式会社ミラティブは株式会社ディー・エヌ・エーから「Mirrativ」の事業を分割して独立した企業。

個人に与えられる裁量が大きいからこそ、成長できた

夏さんは、DeNAへの入社後に初めて担当したサービスが「Mirrativ」だそうですね。何をきっかけに「Mirrativ」に携わるようになったのですか?

入社当初、僕のメンターだった川上 裕幸さん(DeNA・CTO室長・当時)が、「Mirrativ」のCTO的な存在だったからです。川上さんについていく形で、僕も「Mirrativ」を担当することになりました。採用面接の段階でも、人事担当者に「新規事業で、かつ小規模なチームに入りたい」と伝えていたので、その条件にも「Mirrativ」はマッチしていました。

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なぜ、小規模なチームに入りたいと思ったのですか?

僕はもともと、大学時代にインターンでスタートアップ企業で働いていました。その1つに、最初期のWantedlyがあって。個人に与えられた裁量が大きくて、スピード感のある開発ができました。その感じが、すごく自分にフィットしていて。小規模なチームならば、同じようなスタイルで裁量をもって開発できるだろうと考えたんです。 「Mirrativ」では当初、AndroidやiOSといった各領域に1人ずつエンジニアがいる形でした。インターン時代からRuby on Railsを用いた開発に携わっていたこともあり、僕はサーバーサイド担当としてほぼ1人で設計・開発を行いました。

最初に担当したサービスで、サーバーサイドを1人で担当とは。かなりスキルアップに繋がったでしょうね。

個人の裁量と責任が大きかったので、本当に成長できましたね。少人数のチームだからこそ、個々人がユーザーにバリューを提供するために「何をすべきか」を解釈して、プロジェクトを進めていく必要がありました。もちろん失敗もたくさんしましたが、1年目にその経験を積めたのは自分の財産だと思います。 DeNAではインフラ基盤をIT基盤部という部署の方々が構築しているので、サーバーサイドを担当していると、彼らとコミュニケーションを取る局面が数多く発生します。 IT基盤部のエンジニアは、Mobageの大量トラフィックを支えるインフラをつくっているような方々です。彼らと対等に話せるようになるには、かなりの技術的なインプットが必要になりました。大変でしたが、一定のアクセス規模があるサービスに携わり、かつ、大規模なアクセスをさばける基盤を構築した経験がある方々からインプットを頂ける機会はなかなかなく、そういった経験が自分の成長を支えてくれた気がします。

努力の甲斐あり、1年目の終わりには社員MVPを受賞されたとか。技術的な成長があったのはもちろんだと思いますが、他にはどのような要素が受賞に結びついたのでしょうか?

サーバサイドを中心とした仕様策定やAPI設計を通して、新卒ながらインフォーマル・リーダーシップを発揮できました。他のエンジニアやデザイナー、PMと連携を取り合いながらプロジェクトをリードできたことが、受賞に結びついたように思います。

「川上さんだったら、この局面でどうするだろう?」

その後、夏さんのキャリアの転機となった出来事はありますか?

入社から2年ほどが経った2017年の春に、メンターだった川上さんが他のプロジェクトに呼ばれて、チームを抜けたんですよ。それが自分のなかでは相当に大きな変化でした。川上さんからは多くのことを学ばせていただいたので、一緒に働けないのはきつかったです。

例えば、どのような場面で川上さんの凄さを感じますか?

いやもう、ありすぎて……。何を話したらいいか困るくらいです(笑)。一例を挙げると、川上さんは他のメンバーへの説明能力が非常に高い方でした。 「Mirrativ」の開発では、代表取締役の赤川(隼一)から「こういうことをやりたい」というオーダーがよくきます。要求水準は高いですし、ときにはエンジニアから見て「実現するのは相当に難しいな」という内容のものもあります。 そういった要望がある際、川上さんは「どのラインまでは、要望に沿って(あるいは要望以上のものを)実装するか」「どのような基準で、○○はやれない(もしくは今やるべきではない)のか」を、技術に詳しくない人に説明する能力がずば抜けていました。そういう面においては、僕はまだまだ遠く及ばないです。 僕はCTOに就任してから、開発業務だけではなくマネジメントなどの業務も担うようになりましたが、「川上さんだったら、この局面でどうするだろう?」と思う局面はよくありますね。

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川上さんが抜けてから、夏さんの役割に変化はありましたか?

そのタイミングで、川上さんからチームのリードエンジニアを任されました。

なぜ、その役割を任されたのだと思いますか?

リードエンジニア就任前から、プロジェクトのリードに近い形で、サーバーサイドを中心とした設計ができるようになっていたから、だと思います。 就任をきっかけに、サーバサイドに加えてAndroidやiOSの領域も自分が見るようになりました。幸いだったのは、ちょうどその直前ぐらいから、iOSやAndroidの技術習得にも手をつけ始めていたんですよね。サーバーサイドのAPI設計を行ううえでも、クライアント側の内部実装がわかっている方が良いですし。ちょっとした機能であれば、自分1人でプロトタイプをつくれるようになりたかったので。 AndroidやiOSのキャッチアップには時間がかかりますが、ユーザーに価値提供するなかで自分のパフォーマンスを最大化するために必死にインプットとアウトプットを続けました。だからこそ、なんとかやってこれたのかな、と思います。

エンジニアの目線から、CTOの目線へ

その後、2018年2月にミラティブはDeNAから独立し、夏さんの役職もCTOへと変わります。企業が成長するにつれ、エンジニアの人数も増えたのでは?

そうですね。現在(2019年12月の取材時点)は、僕を含めると社員のエンジニアが16名。業務委託として働いていただいている方が5名。副業の形で10名弱ほどの方々に手伝っていただいています。

各領域に1名ずつのエンジニアだった頃と比べると、ずいぶん大きなチームになりましたね。メンバーを増やしていく過程で、大変だったことはありますか?

独立したばかりの頃は、ネームバリューなどの面でDeNAには遠く及ばなくて、思うように社員を採用できなかったです。でもプロダクト開発は加速させていく必要があったので、複数のエンジニアの方々に声をかけて、副業として手伝っていただくケースが増えました。その過程でさまざまな課題が見えてきました。

具体的には、どのような?

例えば、高速にリリースサイクルを回すことを優先していたために、技術的負債が溜まっていた部分もあって。それが原因で、副業のメンバーを入れたのに、開発効率が上がらないようなケースも出てきました。上手くワークせず、残念ながらお別れすることになったりもして。

成長し続ける企業には、よくある課題ですね。

エンジニア組織を成長させるうえでは、こういった課題を地道に解決していく必要がある、という気づきがありました。「どうすれば、より長く働いていただけるだろうか」「メンバーが増えても、開発のスピード感を落とさないためにはどうすべきだろうか」と考えるようになりましたね。

徐々に、CTOとしての視点が身についてきたわけですね。他に、人数が増えてきたことで生じた課題はありますか?

少人数だった頃は、「Mirrativ」の新しい機能を追加する際に「実施する施策を企画担当者が考える」「デザイナーがデザインに落とし込む」「詳細な仕様を自分(夏さん)が考える」という流れでやっていました。 その過程で、詳細仕様のうちMVP(実用最小限の製品:Minimum Viable Product)として何が必要かを、自分自身で取捨選択していました。個人の裁量が大きいからこそ、自然と全体最適化するように思考できていたんですね。 でも人数が増えると、分業っぽい開発スタイルになりやすいんですよ。分業が進んでいくと、みんなが手元のタスクに集中するようになるので、局所最適はしやすいけれど全体最適が難しくなっていくだろうと思っています。

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今後、どのような方法でその課題を解決したいですか?

「何を削るか」「何を優先的に実装すべきか」を考える役割を、担当エンジニアに移譲していきたいです。各エンジニアには事業レベルでのKPI目標達成の責任を持ってもらうことで、サービスが進むべき方向性から逆算して機能の取捨選択をするようになるので、より全体最適を考えられるようになると考えています。 それに、「各タスクの開発工数がどれくらいかかるか」「どうすれば、開発のスピード感を保ちながら安全にリリースサイクルを回していけるか」は、結局のところ担当エンジニアにしかわからないんですよね。

その方が、エンジニアのモチベーションも高くなりそうです。

ミラティブは、ボトムアップとトップダウンの両方が合わさっている会社なんです。例えば、3Dアバター機能「エモモ」の開発は完全にトップダウンでやっていますが、それ以外のところはボトムアップでやっていて。 だからこそ、「サービスをどう良くしていくか」を、個々のメンバーが自分の頭で考えていく必要があります。サービス志向のマインドを持っているかどうかは、採用のときにも重視している部分ですね。

登り方がわからないからこそ、挑戦する価値がある

夏さんは、「Mirrativ」のどういった面に魅力を感じていますか?

正直なところ、僕はもともとゲームのヘビーユーザーというわけではなく、SNSもそれほど使っていないほうです。でも、「ゲームを通じて仲間とコミュニケーションを取ってわかりあう」という領域は、どう考えても伸び代がある。挑戦するだけの価値があると思っています。 いま、世間で「荒野行動」や「PUBG(PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS)」が流行しているのが、それを表していると思っていて。つまり、配信映えするとか、配信を観てみんなでワイワイするのが楽しいとか。そういった要素が、ゲームなどのエンタメにおいて今後は重要になってくると思っています。

単にプレイするだけでなく、“交流”の要素が必要になってくると。

「Mirrativ」はライブストリーミングサービスというより、「ライブストリーミングを活用して、体験を共有するSNS」なんです。あくまで、ユーザー同士のコミュニケーションが主体にあります。

よくあるライブストリーミング系サービスとは、似て非なる思想のサービスなのですね。

エンジニアとして面白いと感じるのは、「Mirrativ」には類似サービスがないからこそ、登り方(サービスグロースの手法)がわからない点なんですよね。一歩間違えれば、誰も使わないサービスができるかもしれない。上手くいけば、世界で通用するサービスができるかもしれない。未踏の領域を進んでいる感じが、すごくあります。

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非常にワクワクしますね。今後は、サービスをどう成長させていきたいですか?

「Mirrativ」はまだ「ゲーム実況のサービス」という枠組みで語られることが多いですが、そのハードルを超えたいと思っています。もっと高次の「ゲームをしているときには、『Mirrativ』を使って友だちと繋がるのが当たり前」という世界を実現していきたいです。

より、「Mirrativ」をユーザーの生活の一部にしていきたいと。

「Mirrativ」はスマホ1台あれば、ボタン1つでスタートできるとはいえ、まだまだ配信する際の“ステージに上がる感”があると考えていて。それが利用のハードルの高さを生んでいると思います。サービスを使う障壁を下げていきたいですし、よりユーザー同士の交流を創出できる仕組みを取り入れていきたいです。 例えば、そのために取り組んでいる施策が、「エモモ」を用いてカラオケ配信が楽しめる「エモカラ」だったりします。その他にも、視聴者がなんらかの形で配信に参加するなど、インタラクティブ性のある機能を盛り込むことで、新しい体験を生み出せるはずです。 ゲーム配信という枠だけにとらわれる必要はなくて。「配信者が視聴者と画面を共有して、同じ体験を共有する」という枠組みで考えれば、さまざまな機能とのかけ算が生み出せると思っています。

エンジニアとしては、挑みがいのあるサービスですね。

まだまだ僕らも登り方がわからない状況ですが、「Mirrativ」にはたくさんの可能性が秘められています。その状況下で、エンジニア全員が「自分が開発をリードしていくんだ」という気持ちを持って、仕事に取り組めるようにしていきたい。熱量高く開発できる、強いチームをつくれたらと思っています。

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文=中薗昴 撮影=漆原未代